教育委員会 御中
平素より市の教育行政にご尽力いただき、深く感謝申し上げます。 本照会は、市内公立学校におけるPTA(保護者と教職員による会)の入会手続きに関する法的問題と、それに対する教育委員会の見解および対応方針について確認するものです。なお、このメールは 一斉メールしております。以前すでにご回答いただいている市町村に置かれましては、重複の旨失礼いたします(以前の回答に誠実にお答えいただいていない市区町村につきましては、再度誠実なご回答をいただきます)。
1. 照会の背景
PTAは、学校教育法第137条に基づき、学校と密接に連携し、保護者と教職員が協働して児童・生徒の教育環境を支える団体であり、学校教育の現場において重要な役割を果たしています。多くの学校では、PTAに対し施設が提供され、教職員が運営に関与し、会費の代行徴収が行われるなど、学校との一体的な関係が存在しています。加えて、公文書開示制度においてPTA関連文書が行政文書として開示対象とされている実態も、両者の密接な関与性を裏付けるものです。
近年、PTAへの自動加入や会費徴収を巡る法的問題が顕在化し、訴訟に発展する事例も報告されています。たとえば、熊本県においては、非加入保護者からの会費徴収に関し返還を求めた裁判が提起され、最終的にPTAが任意加入であることを周知することが和解条件となった事例があります(出典:朝日新聞デジタル「PTA、入退会は自由」)。
こうした社会的背景の中、市内公立学校においても、保護者の明確な入会意思を確認せず、児童・生徒の入学をもって自動的に保護者を会員とする「みなし入会」が行われているとの情報が寄せられており、保護者の意思表示を欠く運用が常態化している懸念があります。このような運用は、以下に述べるとおり、複数の法令に抵触する可能性があり、学校教育法第137条に定める「学校教育上の支障」にも該当しうる看過できない非常に重大な問題と認識しております。
消費者庁の見解により、PTAは消費者契約法(平成12年法律第61号)上の「事業者」に該当し、保護者は「消費者」とみなされます(同法逐条解説)。契約の成立には、民法第522条に基づき保護者の明確な「申込み」とPTAの「承諾」が必要ですが、みなし入会では保護者の意思表示が存在せず、契約不成立の状態にあります。
また、「沈黙による同意」は消費者契約法の「ネガティブ・オプション」に類似し、任意加入であることを周知しないまま会費を徴収する行為は、同法第4条第2項の「不利益事実の不告知」に該当し、契約の取消事由となります。さらに、学校徴収金とPTA会費を併せて徴収する行為は、錯誤(民法第95条)や不当勧誘(同法第10条)の問題を生じさせる可能性があります。
PTA会費を学校が代行して徴収している場合に、PTAと学校との間に明確な委任契約が存在しなければ、これは民法第113条に該当する「無権代理行為」となります。保護者が学校に対して信頼を寄せている状況下で、学校が法的根拠のないまま徴収行為を行うことは、教育機関として重大な責任問題を招くものです。
また、消費者契約法第2条第2項では「共同して事業を行う者」も「事業者」として包括的に責任が問われるとされており、学校もPTAと連帯して責任を負う可能性があります。
児童・生徒の入学時に学校が収集する「緊急連絡票」や「児童名簿」は、本来、教育目的に限定して使用されるべき個人情報です。これをPTA会費徴収のために目的外で使用することは、個人情報保護法第69条に違反する可能性があります。また、PTA入会と情報提供の同意を混同させる運用は、同法第27条の「本人の明確な同意」を欠くため、適法性を欠きます。
学校教育法第137条は、PTAに学校施設の使用を認めるにあたり「学校教育上支障がない限り」という条件を付しており、施設利用の許可は校長(施設管理責任者)の裁量に委ねられています。
PTAが法令違反の疑いある運用を続ける中で施設を継続利用させることは、学校自身が法的・倫理的責任を問われる要因となります。したがって、PTA運用の適正性確保は、学校長および教育委員会の法的責務の一環であるといえます。
みなし入会・抱き合わせ徴収・無権代理行為・個人情報の目的外利用といった問題は、教育現場において保護者との信頼関係を損ない、子どもの教育環境に悪影響を及ぼします。これらはすべて、学校教育法第137条が想定する「支障」に該当する具体的事象といえます。
一部の教育委員会では「PTAは社会教育関係団体であり、社会教育法第12条に基づき干渉できない」との見解を示す場合がありますが、以下の理由からこの適用には重大な疑義があります。
PTAは、教職員の役員参加、学校施設の恒常的利用、学校職員による会費徴収など、学校教育活動と実質上一体化しており、同法が想定する「地域における自主的団体」とは性質が異なります。
教育委員会がPTAに対して入会手続きや個人情報利用の適正化を求めることは、法令遵守を確保するための行政的助言・是正指導であり、「統制的支配」や「不当な干渉」には該当しません。
地方教育行政法第21条により、教育委員会は所轄学校に対し管理・監督義務を負っており、PTAの違法または不適切な運用が学校業務と関係する場合、その是正は監督義務の履行に含まれます。
現在、貴教育委員会および市内各公立学校に対し、PTAの運用実態に関する文書の公文書開示請求を並行して実施しております。その手続きと併行して、本件に関する法的観点から以下の照会を行いますので、ご多忙のところ恐縮ですが、ご回答くださいますようお願い申し上げます。
(1)PTAの入会契約の成立要件に関する法的見解について
保護者の明示的な申込み意思表示とPTAの承諾がないまま、学校側が児童の入学をもって一律に「会員」とみなす運用が多くの学校で行われています。このような「みなし入会」方式について、民法第522条および消費者契約法に照らし、契約が成立していると判断される法的根拠があるか、教育委員会としての見解をお示しください。
(2)学校によるPTA会費の徴収行為が無権代理に該当するかについて
学校がPTAとの間でPTA会費の徴収業務に関する準委任契約を結ばずに、慣例的に児童名簿等を用いて会費を代行徴収しているケースがあります。学校が正式な代理権を持たずにPTAの業務を代行している場合、民法第113条に基づく無権代理に該当すると考えられますが、教育委員会はこの点をどのように評価していますか。
(3)入会申込書による保護者および教職員の明確な意思確認の必要性について
PTAが任意加入団体である以上、契約の成立には個別の申込書や同意書による明示的な加入意思の確認が必要と考えられます。現在多くの学校で申込書を徴収していない状況について、教育委員会として是正の必要性を認識されていますか。
(4)個人情報保護法に基づく児童名簿・連絡個票の利用目的逸脱について
PTAが入会申込書を取得しておらず、申し込んだ保護者・教職員が誰であるかを特定・管理していない状態で、学校が児童名簿や連絡個票を用いてPTA会費の徴収等を行っている実態が、多くの学校で確認されています。これらの名簿情報は、本来、入学手続きや教育活動のために学校が収集したものであり、保護者の同意なくPTAという外部団体の金銭徴収業務に転用することは、個人情報保護法第69条(利用目的の制限)に違反するおそれがあります。加えて、PTA自身が会員の氏名を把握していない状態で、学校が本人同意なしに代理徴収的な行為をしていることは、情報主体(保護者)の権利を大きく侵害する状況であると考えます。貴教育委員会として、このような運用の違法性または法令抵触の可能性に対する認識、および是正の必要性や今後の対応方針について、どのようにお考えでしょうか。明確なご所見をお示しください。
(5)PTAの運用に関する教育委員会の是正指導責任について
学校がPTAと一体的に関与し、会費徴収や施設使用を支援している実態を踏まえれば、PTAの違法または不適切な運用が学校教育の一環と認定される可能性があります。地方教育行政法第21条に基づき、教育委員会が是正指導を行う責任があるとお考えでしょうか。
(6)任意加入・法令遵守が確保されるまでの暫定的措置に関する方針について
PTAが保護者の意思確認を適切に行わず、会員名簿すら把握しないまま会費徴収や施設利用を継続している状態は、法令違反の懸念が濃厚です。教育委員会として、是正がなされるまでの間、学校による施設提供や会費徴収への協力を停止する措置を講じる予定はありますか。
教育委員会におかれましては、地方教育行政法第21条の規定に基づき、以下の対応をご検討いただきたく存じます:
PTAが任意加入団体であることを明確に周知すること
明示的な入会申込書の導入を学校に徹底させること
個人情報の適正な利用に関する運用見直しの指導
無権代理行為の是正と、委任契約の明文化指導
PTAの法令違反が解消されるまでの施設利用や協力体制の見直し
保護者の権利を守り、学校との信頼関係を維持するためにも、早急な対応をお願い申し上げます。
ご多忙の折恐縮ではございますが、本照会に対するご回答を、書面または電子メールにてご送付くださいますようお願い申し上げます。
敬具