校務(学校と家庭の連携)」と「違法な便宜供与(私的活動の代行)」の境界線
PTA適正化推進委員会 研究班 令和8年1月
1.1 本報告書の目的と分析の視座
日本の公立学校教育において、PTAは、戦後長きにわたり学校運営の不可欠なパートナーとして機能してきた。しかし、その実態は「第二の学校予算」あるいは「学校の下請け機関」として、公的機関である学校と、私的団体であるPTAが組織的・財政的・人的に未分化な状態で癒着してきた歴史を持つ。近年、個人情報保護意識の高まりや働き方改革の進展、そして権利意識の変容に伴い、この「慣習的な癒着」に対する法的疑義が各方面から呈されている。
本報告書は、学校組織内部における業務分担の仕組みである「校務分掌」の中に、私的団体であるPTAに関連する業務(いわゆる「PTA担当」)が組み込まれている現状に対し、憲法、行政法、民法、地方公務員法、社会教育法等の多角的な観点から厳密な法的整理を行うことを目的とする。特に、地方公務員である教職員が、職務命令として私的団体の業務を行うことの適法性、限界、およびリスクについて、判例法理と法令解釈に基づき体系的に分析する。
分析にあたっては、以下の3つの法的核心(Legal Cores)を主軸とする。
組織法的視点:公的機関(学校)と私的社会教育団体(PTA)の法的峻別と「不当な支配」の禁止。
公務員法的視点:職務命令の有効範囲、職務専念義務、および兼職兼業規制の適用。
人権法的視点:教職員および保護者の「結社の自由」「思想・良心の自由」とプライバシー権。
1.2 問題の所在:校務と団体活動の混同が生む法的リスク
公立学校の教職員は、地方公務員法に基づき「全体の奉仕者」として勤務し、法令および上司の職務上の命令に従う義務を負う(同法第30条、第32条)。一方で、PTAは社会教育法第10条に規定される社会教育関係団体であり、国や地方公共団体(学校)から「不当に統制的支配」を受けず、また干渉を受けない独立した私的団体である(同法第12条)1。
しかし、教育現場の実態として、教職員が「校務分掌」という職務命令の形式において、PTAの会計事務、広報誌の作成、行事の運営実務、さらには非加入者への加入勧奨等を担わされている事例が常態化している。これは、公務員が勤務時間内に私的団体の業務を行うことを意味し、職務専念義務違反(地方公務員法第35条)や、公金の不適正な支出(給与支払い)、さらには個人情報保護法違反といった重大な法的懸念を孕んでいる。
本報告書では、どこまでが「校務(学校と家庭の連携)」として許容され、どこからが「違法な便宜供与(私的活動の代行)」となるのか、その境界線を詳らかにする。特に、最高裁判所昭和49年2月19日判決(職務命令の有効性に関するリーディングケース)等の判例法理をPTA業務に応用し、具体的な業務ごとの適法性を検証する。
PTAは、学校教育法等の法律に基づいて設立が義務付けられている公的な機関ではなく、民法上の「権利能力なき社団」として位置づけられるのが通説である1。
2.1.1 権利能力なき社団の定義と要件
最高裁判所の判例(最判昭和39年10月15日等)によれば、権利能力なき社団とは、法人格を持たないものの、団体としての実体を備えた組織を指す。具体的には以下の4要件を満たすものが該当する。
団体としての組織を備えていること:代表者、事務局、運営ルール(会則)が存在すること。
多数決の原則が行われていること:総会や役員会等での意思決定システムがあること。
構成員の変更に関わらず団体が存続すること:会員の入退会があっても組織が継続すること。
代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること。
PTAが権利能力なき社団であることの法的含意は、その活動が構成員の「総有」に属し、外部に対する責任や契約主体としての地位が、法人格を持たないがゆえに代表者個人や構成員全体に帰属する点にある。したがって、PTAは学校長(行政庁)の下部組織ではなく、独立した権利主体(に近い実体)として扱われなければならない。
PTAを巡る法的議論において最も根本的な規範は、日本国憲法第21条が保障する「結社の自由」である。これには、団体を結成する自由、加入する自由のみならず、「加入しない自由(消極的結社の自由)」および「脱退する自由」が含まれる3。
2.2.1 強制加入(自動加入)の違憲性
多くの学校現場で慣習的に行われてきた「児童の入学と同時に保護者が自動的にPTA会員となる」という運用(自動加入)は、契約法上の「申込みと承諾」の合意プロセスを欠いており、法的根拠を欠くものである。
熊本PTA裁判(福岡高裁2017年和解)等の司法判断においても、「PTAは入退会自由な任意団体である」という前提事実が確認されている2。したがって、学校側が「入学説明会」等の場において、あたかも加入が義務であるかのように誤信させる説明を行ったり、非加入の選択肢を提示せずに会費を徴収したりする行為は、欺罔的手段による契約締結(消費者契約法上の取消事由)や、不法行為(民法709条)を構成する可能性がある。
2.2.2 教職員の加入の任意性と「職務」の分離
「Parent-Teacher Association」の名称が示す通り、教職員もPTAの構成員となることが想定されている。しかし、教職員にとってもPTAへの加入は憲法上の権利(自由)であり、職務上の義務(校務)ではない。
鹿児島県の公立学校教員が、同意なく給与からPTA会費を天引きされたとして返還を求めた事案2は、この論点を浮き彫りにした。裁判所は、長期間異議を唱えなかった事実から「黙示の承諾」を認定し、教員の請求を棄却する傾向にあるものの4、これは「慣習による事後的な追認」を認めたに過ぎず、理論上、教員にPTA加入義務があるとしたものではない。
教員が「PTAには加入しない」という意思表示をした場合、校長はこれを理由に人事考課上の不利益な取り扱いをすることは許されず、また、非会員である教員に対して「会員としての義務(会費納入や役員業務)」を職務命令として課すことはできない。
社会教育法第10条は、PTAを「社会教育関係団体」と定義する。同法第12条は、行政と社会教育団体の関係について厳格な規律を設けている1。
社会教育法 第12条(国及び地方公共団体との関係)
国及び地方公共団体は、社会教育関係団体に対し、いかなる方法によつても、不当に統制的支配を及ぼし、又はその事業に干渉を加えてはならない。
この条項は、戦前の国家による社会教育団体(青年団や婦人会等)への統制への反省から設けられた「公私分離の原則」である。
「統制的支配」の禁止:学校長がPTA会長の人選を指名したり、予算案を修正させたりすること。
「事業への干渉」の禁止:PTAの独自事業に対し、学校側がその内容を検閲したり、中止を命じたりすること。
逆に解釈すれば、PTAもまた学校運営(公務)に不当に介入してはならないし、学校の下請け機関として機能することも法の趣旨に反する。「校務分掌」として教職員にPTAの内部事務(会計や名簿管理)を命じることは、実質的に学校がPTAの運営機能を支配・代行している状態を作り出すため、同条違反の疑いが極めて強い。
学校教育法第37条第4項は「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する」と規定している5。ここでいう「校務」とは、学校の設置目的を達成するために必要な一切の業務を指すと解される。
校務分掌とは、校長がその権限に基づき、所属職員に対して特定の校務を分担させる組織的行為であり、法的には「包括的な職務命令」の性質を持つ5。
地方公務員法第32条は、「職員は、その職務を遂行するに当つて、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」と規定している9。したがって、適法な校務分掌に基づく業務命令には、教職員は従う義務がある。
しかし、この命令権は無制限ではない。職務命令が有効であるためには、以下の要件を満たす必要がある(最高裁昭和49年判決等に基づく)10。
形式的要件:権限のある者(校長)によって発せられていること。
実質的要件:
その内容が法令に違反しないこと。
「職務に関連する」ものであること。
事実上の履行が可能であること。
本報告書の核心的論点は、「PTA担当」という分掌が、上記の「職務に関連する」要件、および「法令に違反しない」要件を満たすか否かである。
3.3.1 「リエゾン(連絡調整)」としての適法性
学校と家庭・地域との連携は、教育基本法第13条(学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力)等により推奨される活動である。したがって、学校側がPTAという保護者団体との連絡窓口(リエゾン)を設け、以下の業務を教職員に命じることは、「家庭との連携」という校務の一環として適法であると解される7。
学校行事とPTA行事の日程調整。
学校施設(体育館等)の使用許可申請の取次ぎ。
学校の教育方針や児童の様子を保護者(PTA)へ説明すること。
PTAからの要請に基づく教育的助言(社会教育法第11条)。
3.3.2 「事務代行(執行)」の違法性
一方で、PTAという私的団体の内部事務そのものを教職員に行わせることは、以下の理由により違法性が極めて高い。
職務専念義務違反(地公法35条):公務員は勤務時間中、全力を挙げて職務に専念しなければならない。私的団体の会計処理、広報誌編集、会員名簿管理等は「職務(公務)」ではなく、これを行うことは職務専念義務違反となる。
公益性の欠如と便宜供与:特定の任意団体(PTA)の運営事務を公務員が肩代わりすることは、他の社会教育団体(スポーツ少年団やボーイスカウト等)と比較して不当な便宜供与となり、憲法15条の「全体の奉仕者」たる性格に反する。
社会教育法12条違反:学校が教職員を使ってPTAの実務を取り仕切ることは、実質的にPTAを「支配」あるいは「干渉」している状態と言え、団体の自主性を侵害する。
この判決は、職務命令が憲法19条(思想・良心の自由)を侵害するかどうかが争われた、公務員の職務命令に関する最も重要なリーディングケースである11。PTA業務命令の有効性を考える上でも、この判決の論理構成(ロジック)が基準となる。
4.1.1 最高裁の論理構成
思想・良心の自由への制約:職務命令が、個人の内心の自由(特定の思想を持つこと、持たないこと)を直接制約するものでない限り、直ちに違憲とはならない。行動の強制が「間接的な制約」になるとしても、公共の福祉による必要最小限度の制約は許容される。
職務の公共性:公務員は「全体の奉仕者」であり、法令等に基づく職務命令には従う義務がある。
職務関連性と合理性:職務命令は「職務の遂行」に関連するものでなければならない。君が代の場合、「式典の円滑な進行」や「学習指導要領に基づく教育上の指導」という公的な目的(必要性及び合理性)が認められた。
4.1.2 PTA業務への適用(Hypothetical Analysis)
教員が「PTAは任意団体であり、強制加入等の運営実態は違法である」という思想・信条を持ち、PTA業務(例:加入勧奨や会計処理)を拒否した場合、校長の職務命令は有効となるか。
職務関連性の欠如:君が代訴訟では「学習指導要領」という強力な法的根拠があった。しかし、PTA業務にはそのような法令上の根拠が存在しない。むしろ、PTAの内部事務を行うことは地公法35条違反(職務専念義務違反)の疑いが濃厚であり、「職務に関連しない」あるいは「違法な命令」として無効とされる可能性が高い。
合理性の欠如:「私的団体の維持」を目的とした業務命令に、公務としての「必要性及び合理性」を見出すことは困難である。特に、法的根拠のない強制加入を幇助するような業務(全家庭への会費袋配布等)を命じることは、教員に違法行為の片棒を担がせるものであり、裁量権の逸脱・濫用となる。
2014年に提訴され、2017年に福岡高裁で和解が成立した熊本PTA裁判は、PTAの法的地位に関する現代的な基準を示した2。
この裁判において、以下の点が確認された。
PTAは入退会自由な任意団体であること。
保護者に対して、その旨を周知徹底すること。
この司法判断は、教職員の業務にも重大な影響を与える。学校長は、教職員に対しても「PTA業務は公務ではない(任意の協力である)」ことを明確にする法的責任を負うことになったと言える。また、保護者への「強制加入」を前提とした業務プロセス(入学説明会での一律徴収等)を教員に命じることは、この判決(和解条項)の精神に反する行為となる。
多くの学校で、PTA会費(私金)が学校徴収金(公金または準公金)と合算して引き落とされ、教員(事務職員含む)が現金管理を行っている。
地方財政法違反:地方公共団体は、法的根拠なく私的団体の資金を集める権利を持たない。学校給食費等の公会計化が進む中、PTA会費の徴収代行は法的根拠を欠く「事実上の便宜供与」である。
横領・紛失リスク:教員がPTA会費を紛失した場合、それは「公務上の損害」ではないため、公的な補填が効かない。教員個人の弁済責任が問われることになる。また、教員によるPTA会費の横領事件も後を絶たず15、これは業務上横領罪(刑法253条)を構成する。学校という公的空間で私的資金を扱わせる構造自体が、犯罪の温床となっている。
PTA会員名簿の作成にあたり、学校が保有する児童生徒名簿を教職員がPTA役員に提供する行為は、個人情報保護法および各自治体の個人情報保護条例違反となる1。
5.2.1 第三者提供の制限(法23条)
学校(個人情報取扱事業者・実施機関)は、あらかじめ本人の同意を得ずに、利用目的(学校教育)以外の目的(PTA活動)で第三者(PTA)に個人データを提供してはならない。
「学校とPTAは一体だから」という理屈は法律上通用しない。過去には、学校長がPTAに名簿を無断提供したことで書類送検された事例も存在する。
教職員が校務分掌として「名簿作成」を命じられ、これを行った場合、教職員個人も地方公務員法上の守秘義務違反(第34条)に問われるリスクがある。
5.2.2 オプトアウト手続の厳格化
改正個人情報保護法においてPTA(民間事業者)がオプトアウト(事後停止)により第三者提供を行う手続きは厳格化され、個人情報保護委員会への届出が必要となった。一方、公立学校(行政機関等)にはそもそもオプトアウト制度(届出による例外)は存在せず、法令に基づく場合を除き、事前の同意なしにPTAへ名簿を提供することは目的外提供として禁止されている。したがって、現状行われている「事前の同意(オプトイン)」なしの名簿提供は、学校側・PTA側双方の観点から見ても、法令違反となる可能性が極めて高い
教職員がPTA行事(例:親睦球技大会、夏祭り巡回)に参加し、負傷した場合、公務災害と認定されるか否かは、その活動が「公務」として位置づけられていたかに依存する16。
5.3.1 認定基準:職務遂行性
地方公務員災害補償基金の認定基準によれば、公務災害認定の鍵は「任命権者(校長)の支配下にあったか」である。
認定事例:校長が「職務命令(出張・旅行命令)」を発令し、業務として参加させた場合16。
不認定事例:校長の命令がなく、教員が「保護者の一人」あるいは「自主的なボランティア」として参加していた場合17。
5.3.2 法的パラドックス(矛盾)
ここに重大な矛盾(Legal Paradox)が生じる。
公務災害認定を得るためには、「校長の命令による業務(公務)」である必要がある。
しかし、PTAは「自主的な社会教育団体」であり、その行事が「公務」であるとすると、学校がPTA行事を主催・支配していることになり、社会教育法12条(不当な支配・干渉の禁止)や地方財政法(私的活動への公費支出)に抵触する。
多くの学校では、この矛盾を回避するために「形式上はボランティア(命令なし)」としつつ、「事実上の強制(全員参加の圧力)」で動員するという脱法的な運用が行われている。その結果、事故が起きた際に教員が補償を受けられない(「勝手に参加した」とされる)という悲劇が生じる19。
もし教職員が、校務外の時間にPTAの業務を行う場合、それは「兼職兼業」に該当する。地方公務員法第38条は営利企業への従事等を制限しているが、PTAは非営利団体であるため、任命権者(教育委員会)の許可を得れば兼業は可能である20。
適法化のルートの一つは、PTA業務を「校務」から切り離し、教員が「個人」として、勤務時間外にボランティアとして関わる形(必要に応じて兼業申請を行う形)に移行することである。しかし、これは教員の長時間労働(過労死ライン)が問題視される中、現実的な解決策とはなりにくい。
最も法的に整合性のある解決策は、校務分掌における「PTA担当」の業務を厳格に仕分け(Unbundling)し、私的業務をPTA側に返還することである。
6.2.1 「地域連携担当」への再定義
校務分掌表から、曖昧な「PTA担当」という名称を廃止し、「地域連携担当」あるいは「保護者連携担当」等、公務としての性格を明確にした名称に変更すべきである。
その職務内容は、「学校教育活動に必要な保護者・地域との調整(リエゾン)」に限定する。
6.2.2 事務のアウトソーシング
PTAの内部事務(会計、名簿、広報誌編集等)は、職務分掌から完全に除外する。これらはPTA会員(保護者)自身が行うか、PTA会費を用いて外部業者(シルバー人材センターや事務代行業者)に委託すべき業務である。文部科学省も、PTA業務のスリム化や外部委託を推奨する方向にある。
入会手続きの主体是正: 学校は、PTAが入学手続きの一部であるかのような誤解を与える配布・説明を行わない。入会届の配布・回収や意思確認は、主体であるPTA自身が行うよう要請し、学校はこれに関与しない(教職員に加入確認の負担を負わせない)。
個人情報の非提供: 学校は、法令に基づく場合を除き、保護者の書面による事前の同意なく、児童生徒・保護者の名簿をPTAに提供あるいは目的外利用はしない。
費用の完全分離: PTA会費は私費であるため、学校徴収金(給食費等)とは明確に切り離し、学校口座での引き落としや学校による徴収代行を行わない(PTA独自の口座振替や集金体制への移行を促す)。 ※PTA会費は公金ではないため、公会計化の対象とはならない。第7章 結論:持続可能な連携のための法的再構築
現状の公立学校における「PTA担当」教員の業務は、法的根拠が極めて脆弱な「慣習」の上に成り立っている。
組織法違反:私的団体の業務を公務員が勤務時間内に行っている(地公法35条違反)。
教育法違反:学校が社会教育団体を実質的に支配・運営している(社会教育法12条違反の疑い)。
プライバシー侵害:同意なき個人情報の第三者提供を常態化させている(個人情報保護法違反)。
労働法制上のリスク:公務災害認定の不安定さや、教職員の結社の自由の侵害。
これらの違法状態(Compounded Illegality)を放置することは、教職員を法的リスクに晒すだけでなく、保護者の権利を侵害し、ひいては学校教育への信頼を損なうものである。
教育行政および学校経営者は、以下の「法的整理」を断行すべきである。
「校務」の純化:PTAの内部運営事務を校務分掌から排除し、学校の業務を「教育活動」と「正当な連携業務」に純化する。
職務命令の適正化:校長は、法的根拠のない私的団体の業務を教職員に命じてはならない。職務命令の発出にあたっては、その「職務関連性」を厳格に審査する。
PTAの自立支援:学校依存型のPTAから、自律的な社会教育団体への脱皮を促す。学校はそのための「技術的援助(社会教育法11条)」を行うにとどめ、運営そのものからは手を引く。
「校務分掌」という行政用語の枠内に、私的団体であるPTAを無自覚に押し込むことを止め、公法上の「学校」と私法上の「社団」としての「PTA」の関係を再定義することこそが、持続可能で健全な学校・家庭・地域の連携(真のパートナーシップ)を築くための不可避なプロセスである。
参考文献・引用元リスト
本報告書の作成にあたり、以下の資料・判例・法令を参照した。
判例
11 最高裁判所 昭和49年2月19日 大法廷判決(君が代起立斉唱職務命令事件) - 職務命令の有効性要件
2 福岡高等裁判所 平成29年(和解)、熊本地方裁判所 平成26年(棄却) - 熊本PTA裁判
19 仙台高等裁判所 平成14年 - 教員の過労死・公務災害認定
2 東京地方裁判所 平成元年6月20日 判決 - 不法行為責任
法令
1 社会教育法(第10条、第11条、第12条)
8 地方公務員法(第30条、第32条、第35条、第38条)
5 学校教育法(第37条)
3 個人情報保護法、地方財政法
1 憲法(第19条、第21条)
行政資料・その他
12 文部科学省・教育委員会によるPTA関連通知・見解
16 地方公務員災害補償基金 公務災害認定基準
20 教職員の兼職兼業に関する規程
7 校務分掌の実態に関する資料
以上
引用文献
PTAの法的根拠や法的性質とは?行政書士が具体 ... - PTA・学校の法務, 1月 14, 2026にアクセス、 https://kasaki.net/pta%E3%81%AE%E6%B3%95%E7%9A%84%E6%A0%B9%E6%8B%A0%E3%82%84%E6%B3%95%E7%9A%84%E6%80%A7%E8%B3%AA%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E8%A1%8C%E6%94%BF%E6%9B%B8%E5%A3%AB%E3%81%8C%E8%A7%A3%E8%AA%AC%E3%81%97/
PTA活動に関する裁判例, 1月 14, 2026にアクセス、 https://zen-p.net/tp/p421.html
PTAの法律違反をまとめてみました | かなへび文庫, 1月 14, 2026にアクセス、 https://kanahebibunko.com/pta-illegal/
️ PTA会費は返還されるのか?―鹿児島地裁が示した「黙示の入会」と教育現場の慣行, 1月 14, 2026にアクセス、 https://blog-minato-tora.com/pta-membership-fee-lawsuit/
1月 14, 2026にアクセス、 http://www.tcp-ip.or.jp/~syaraku/nctd15-2.htm
051 校務分掌とは, 1月 14, 2026にアクセス、 http://www.showado-kyoto.jp/files/kyoikuhoki-topic/topic051.pdf
教頭選考対策 核心部②〜学校管理職と教諭に求められる能力の違い|リアリスト - note, 1月 14, 2026にアクセス、 https://note.com/brisk_eagle4352/n/n6c8ac5d71c17
第3章 教職員の職務と服務規律 - 山梨県, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.pref.yamanashi.jp/documents/22367/r0704_03.pdf
Ⅰ 教育公務員の服務等 - 徳島県立総合教育センター, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.tokushima-ec.ed.jp/file/1199
判例における学校管理職の諸問題 - cata log.lib.ky, 1月 14, 2026にアクセス、 https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/822/KJ00000685489-00001.pdf
君が代起立斉唱の職務命令が憲法19条に違反しないとした判例(多数意見), 1月 14, 2026にアクセス、 https://himejishimin.com/1283/
公務員の任用に際しての「意向確認」と 思想・良心の自由, 1月 14, 2026にアクセス、 https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/record/16355/files/KU-1100-20200527-03.pdf
業務上横領とは?構成要件や刑罰、会社の対応をわかりやすく解説 - 咲くやこの花法律事務所, 1月 14, 2026にアクセス、 https://embezzlement.jp/column/about-corporate-embezzlement/
小学校教諭が、授業参観の終了後、学校とPTAとの親睦を図ることを目的として、児童 - 地方公務員災害補償基金 福岡県支部, 1月 14, 2026にアクセス、 http://fukuoka-chikousaikikin.jp/recognition_1_20.html
〔Ⅲ〕公務災害・通勤災害の認定基準, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.pref.shimane.lg.jp/admin/pref/jinji/jinji/koumusaigai/koumusaigaihoshouseido.data/03ninnteikijunn.pdf
教員のうつ病自殺と公務災害認定 - 大阪教育法研究会, 1月 14, 2026にアクセス、 http://kohoken.chobi.net/cgi-bin/folio.cgi?index=bun&query=/lib/khk241a1.htm
P T Aが主催して学校や 教員とともに行う補習授業, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.daiichihoki.co.jp/store/upload/pdf/027326_pub.pdf
君が代起立斉唱拒否による再任用等不合格事件 - J-Stage, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jichisoken/45/489/45_1/_pdf/-char/ja
判 決 - 裁判所, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89922.pdf
PTAに強制参加...これって違法じゃないの?, 1月 14, 2026にアクセス、 https://lmedia.jp/2014/04/27/51818/
・地方公務員法 ・地方公務員法 (教育小六法) - 教育委員会事務局, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.kochinet.ed.jp/kgjimuken/shibu/hata2014/manual/hukumu/tebiki(Q1%EF%BD%9E18).pdf
学校職員の兼業等及び教育公務員の教育に関する兼職等に関する事務取扱規程 - CALL4, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.call4.jp/file/pdf/202112/aa2a91d073258fdd353756acc2cdc054.pdf
PTAをのぞいてみよう! - 町田市, 1月 14, 2026にアクセス、 https://www.city.machida.tokyo.jp/bunka/syakai/pta-shien.files/PTAwonozoitemiyou2019_202012ver.pdf
PTA適正化推進委員会
令和8年1月
学校現場において、教職員が勤務時間内にPTAの会計・集金・事務等の業務(以下「PTA業務」)に従事することは、地方公務員法第35条の「職務専念義務」に違反する疑いが極めて強い。これに対し、学校管理職や教育委員会はしばしば「PTA活動は学校運営に必要不可欠であり、公益性が高いため、職務専念義務の免除(職専免)の対象として適法である」と抗弁する。また、現場によっては職務命令として業務を課している実態もある ¹ 。
しかし、この「必要不可欠」あるいは「職務命令」という主張こそが、PTAが本来有すべき法的性質(社会教育関係団体)を否定し、地方財政法違反(違法な寄付の強要・公費の肩代わり)を自白する「論理的な詰み(ダブルバインド)」の状態に陥っている。本稿ではその法的問題を明らかにする。
「私的団体」としてのPTAと職務権限の限界
PTAは社会教育法第10条に定める「社会教育関係団体」であり、行政(学校)から独立した自主的な任意団体(私的団体)である。 地方公務員法および教育法規の原則に基づけば、校長が教職員に対して発出できる「職務命令」は、あくまで「公務(学校の職務)」の範囲内に限定される。
「職務命令」が存在する場合の違法性(権限の逸脱)
一部の学校では、PTA業務に関して校長から職務命令が出されているケースがある。しかし、以下の理由により、そのような命令は法的に無効、あるいは違法な命令であると言わざるを得ない。
職務権限の範囲外
職務命令は「職員の職務に関するもの」でなければならない ² 。法解釈において、「学校と関係はあっても、PTAの会計事務や青年団活動の指導などを命ずることはできない」と明記されている ³ 。学校とは別個の団体である「PTAの会計事務」や「集金業務」を命じることは、校長の職務権限の範囲を逸脱している。
私的労務の提供強要
公務員に対し、特定の私的団体のための労務提供を職務として命じることは、公務の中立性を定めた地方公務員法の趣旨に反する。
「職務命令」が存在しない場合の違法性(職務専念義務違反)
他方で、明示的な職務命令を出さず、「慣例」として教職員に行わせているケースも多いのが実情である。この場合、教職員は「法的根拠のない業務」を「勤務時間内」に行っていることになり、地方公務員法第35条違反(職務専念義務違反)が直ちに成立する ⁴ 。 すなわち、職務命令があろうがなかろうが、教職員がPTA業務を行う法的正当性は極めて脆いものである。
会計管理の混在が示す「公私混同」
PTA会費の管理実態については、学校徴収金(給食費や教材費等の公金・準公金)と同一の口座や財布で管理されている場合と、分別管理されている場合がある。しかし、いずれのケースであっても、「学校(教職員)が会計実務を行っている」という事実に変わりはない。 これは本来、保護者や生徒の信託に基づく私的な会計であり、公費会計のような法規制がないため、「甘えの構造」が生じやすく、学校事務職員への負担固定化を招いている ⁵ 。
同一管理の場合
公金と私金(PTA費)の混同であり、会計規則上の重大なコンプライアンス違反である。
分別管理の場合
物理的に分けていたとしても、勤務時間内に公務員が私的団体の金銭出納・帳簿管理を行うことは、実質的な便宜供与(公的リソースの流用)にあたる。
「必要不可欠」論が招く地方財政法違反 学校側がPTAによる資金援助や、教職員による事務代行を「学校運営に必要不可欠な協力」と正当化しようとするならば、以下の法的矛盾に直面する。
公費負担の原則違反
義務教育諸学校の運営経費は、本来「公費(税金)」で賄われるべきものである(学校教育法、憲法第26条)。実際には教育財政の不足をPTAに依存している現状があり ⁶ 、これは本来行政が負担すべき経費を、保護者からの私費徴収で穴埋めさせている実態(いわゆる「第二の財布」)の自白に他ならない ⁷ 。
違法な寄付の強要
地方財政法第4条の5は、自治体が住民に寄付を割り当てることを禁じている。学校運営に不可欠な資金としてPTA会費を徴収し、その事務を教職員が組織的に担う構造は、事実上の「強制徴収(第二の税金)」であり、同法違反の疑いが極めて濃厚である。
形式的承認では適法化されない(茅ヶ崎市職員派遣事件の法理)
学校側は、条例に基づく「職務専念義務免除(職専免)」の承認手続き(あるいは黙示の承認)を盾に、適法性を主張することがある。しかし、最高裁判例(茅ヶ崎市職員派遣事件)は、形式的な承認手続きがあったとしても、以下の要件を満たさない場合は違法となると判示している ⁸ 。
公益上の必要性
その業務が「市の事務」と密接に関連し、公益性が高いこと。
業務の性質
私的団体の内部的事務(庶務・会計等)ではなく、行政目的の達成に直接寄与するものであること。
PTA事務に「公益性」は認められない
PTAの「集金」「会計」「会員管理」といった業務は、あくまで団体の「内部管理事務」である。裁判例(八王子市観光協会事件)においても、市と連携する公益法人であっても「あくまで市とは別個の団体」であり、その一般会計事務に従事させることは違法と断じられている ⁹ 。 特定の私的団体の財布を管理することに「公益性」があると強弁することは、行政による裁量権の逸脱・濫用であり、たとえ形式的な承認印があったとしても、その承認行為自体が実質的違法性を帯びる。
行政の不作為と違法の二者択一 以上の通り、教職員によるPTA業務従事を正当化しようとする試みは、いずれの理路をとっても破綻する。
PTAを「私的団体」と認めるならば
その内部事務を公務員に行わせることは、職務専念義務違反および特定団体への利益供与であり違法である。
PTAを「公的な機能(必要不可欠な存在)」と主張するならば
その資金は公費で賄われるべきであり、保護者への負担転嫁と教職員による徴収代行は、地方財政法違反および教育行政の怠慢(予算措置不履行)である。
学校および教育委員会は、教職員に違法な労働を強いる「職務命令」や、法の趣旨を歪めた「職務専念義務免除」の運用を直ちに停止し、PTA業務の完全な分離(外部委託化または公費化)へと舵を切るべきである。
¹ 広島県立高校における事務職員へのアンケートや研修等の記録において、PTA事務を扱うべきか否かの議論や、「職務に専念する義務を免れるもの」とする解釈が存在した経緯がある。 (出典: 週刊教育資料 平成5年6月7日号 「学校事務の活性化と教育経営」)
http://dl.ndl.go.jp/api/iiif/12245220/R0000001/full/full/0/default.jpg?download=true (参照ページ: 1)
² 職務命令には「職員の職務に関するものであること」が有効要件の一つとして挙げられる。 (出典: 教育管理職講座 「職務命令は職務上の義務の一つ」)
http://dl.ndl.go.jp/api/iiif/001/R0000001/full/full/0/default.jpg?download=true (参照ページ: 1)
³ 具体的な職務命令の限界として、「PTAの会計事務や青年団活動の指導などを命ずることはできない」との記述がある。 (出典: 同上)
⁴ 職務専念義務(地方公務員法第35条)は、法令や条例に特段の定めがある場合を除き、勤務時間のすべてを職責遂行のために用いることを定めている。 (出典: 公私協働時代における職務専念義務免除のあり方, 法と政治 69巻1号)
http://www.city.sanda.lg.jp/soumu/documents/jikohatu.pdf (参照ページ: 15)
⁵ 学校徴収金(諸費会計)は、公費会計のような法規制がなく、学校事務職員への負担が「甘えの構造」として固定化しているとの指摘がある。 (出典: 週刊教育資料 平成5年6月7日号)
⁶ 教育財政が不足し、学校教育費の不足をPTAに依存している現状は改善されていないとの指摘がある。 (出典: 「社会教育」 PTAと社会教育 1979年)
http://dl.ndl.go.jp/api/iiif/digidepo_12245220_0001/R0000001/full/full/0/default.jpg?download=true (参照ページ: 1)
⁷ 広島県議会等の記録において、本来公費で賄うべき経費を父兄(PTA)から徴収している問題が指摘されている。 (出典: 広島県議会会議録)
http://dl.ndl.go.jp/api/iiif/04/R0000001/full/full/0/default.jpg?download=true (参照ページ: 1)
⁸ 茅ヶ崎市職員派遣違法公金支出損害賠償請求事件 (最高裁平成10年4月24日判決)。条例上の手続きを経ていても、派遣の目的や具体的な業務内容(内部的事務等)を審査し、公益上の必要性が認められなければ違法(職務専念義務違反)であるとされた。 (出典: 公私協働時代における職務専念義務免除のあり方, 法と政治 69巻1号)
⁹ 八王子市観光協会職員派遣違法公金支出損害賠償請求事件 (東京地裁平成14年7月18日判決)。観光協会の「一般会計事務」等に従事させることは、市の事務とは同一視できず、職務命令および職務専念義務免除は違法であると判示された。 (出典: 同上)