PTA適正化推進委員会
令和7年12月
日本の公立学校教育において、PTA(Parent-Teacher Association)は戦後、GHQの指導の下、民主的な社会教育関係団体として発足した。しかし、その後の長い歴史の中で、PTAは学校運営を物心両面で支える「第二の財布」あるいは「無償の労働力」として、学校組織と不可分な形で融合してきた。この「学校とPTAの一体化」は、長らく教育現場の慣行として黙認されてきたが、近年、コンプライアンス意識の高まりと保護者の権利意識の変容により、その法的妥当性が厳しく問われるようになっている。
本論考は、当委員会が収集した行政文書、内部資料、メール交渉記録、および公開情報を基に、学校職員(教職員および学校事務職員)が勤務時間中にPTA業務に関与することの法的問題を、特に地方公務員法第35条(職務に専念する義務)を中心に、極めて詳細かつ多角的に検証するものである。さらに、この問題が単なる服務規律の問題にとどまらず、地方自治法上の財務規律(公金と私費の混同)、個人情報保護法上の権利侵害、そして日本国憲法が保障する「結社の自由」といった法体系全体といかに抵触し、構造的な違法状態(Systemic Illegality)を引き起こしているかを解明する。
特に、川崎市教育委員会による「要綱化」を通じた適法化の試みや、横浜市教育委員会の「オプトイン(明示的同意)」への転換といった最新の行政動向を詳細に分析し、これらが「職務専念義務違反」という核心的な法的リスクを回避し得るものか、あるいは単なる弥縫策に過ぎないのかを厳格に評価する。本論考を通じ、教育行政が直面する「法の支配」の危機と、その解決に向けた不可逆的な道筋を提示する。
地方公務員法第35条は、公務員の服務における最も基本的かつ厳格な規律の一つである「職務専念義務」を定めている。
地方公務員法 第三十五条
職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
この条文は、公務員が「全体の奉仕者」として公共の利益のために労務を提供するという憲法第15条の精神を具体化したものであり、その核心は「職務の公共性」と「専念の排他性」にある。すなわち、勤務時間中においては、私的な活動はもちろんのこと、たとえ公益的な活動であっても、それが「当該地方公共団体がなすべき責を有する職務」でない限り、従事することは許されない。
ここで最大の争点となるのが、「学校職員にとってのPTA業務は『職務』に含まれるか」という定義の問題である。
1.2.1 昭和39年自治省行政実例の拘束力
この点に関し、現在でも実務上の最大の根拠とされているのが、1964年(昭和39年)1月20日に自治省(現・総務省)給与課長が示した行政実例である。
回答要旨
「一般にPTA、同窓会など任意団体の事務は地方公務員法第35条に規定する『地方公共団体がなすべき責を有する職務』には含まれないと解される。」
この回答は、PTAが学校(行政機関)とは別個の独立した「任意団体」であり、その内部事務(会計、総務、広報等)は行政の責任範囲外であることを明確に宣言している。したがって、半世紀以上経過した現在においても、教職員が正規の勤務時間中にPTAの事務に従事することは、原則として第35条違反を構成するという解釈が確定している。これに基づき、教職員が勤務時間外にPTA業務を行ったとしても、それは「公務」ではないため、時間外勤務手当(超過勤務手当)の支給対象とはなり得ないことも同時に示されている。
1.2.2 「校務」と「職務」の概念的乖離
教育現場では、しばしば「校務」という言葉が広義に使用され、PTA活動もその一部であるかのような誤解が蔓延している。しかし、法的な定義においては「校務」と「職務」は厳密に区別される必要がある。
2006年の中央教育審議会資料およびその後の文部科学省の見解によれば、「職務」は「校務」のうち職員に個別に与えられて果たすべき任務であると定義されている。
「校務」の範囲には、確かに「PTA、社会教育団体など各種団体との連絡調整などの渉外に関する面」が含まれるとされている。しかし、ここで許容されているのはあくまで「連絡調整(Liaison)」であり、団体の運営そのものを代行する「業務執行(Operation)」ではない。
適法な「連絡調整」の例:
学校行事へのPTA支援の依頼
PTA総会における校長挨拶
学校施設利用に関する日程調整
地域連携協議会への出席
違法性が高い「業務執行」の例:
会計事務: PTA会費の集計、銀行口座への入金、通帳の管理、決算書の作成、監査資料の準備。
庶務事務: PTA入会届の配布・回収・集計、会員名簿の作成・管理、非加入者リストの作成。
広報事務: PTA広報紙の原稿作成、学校の輪転機を使用した印刷、丁合、児童を通じた配布作業。
運営事務: 役員選出のための指名委員会への出席・調整、保護者への電話勧誘(一本釣り)。
これらの「業務執行」は、本来PTA会員(保護者)が自主的に行うべき活動であり、これを教職員が勤務時間中に行うことは、「地方公共団体がなすべき責を有する職務」の範囲を逸脱し、公務員の労務提供義務違反(職務専念義務違反)となる。
文部科学省は、2012年(平成24年)の自治労学校事務協議会との交渉において、この問題に対する踏み込んだ見解を示している。
文科省回答(2012.07.18)
「教職員が勤務時間中にPTA会計業務等の業務に従事することは地方公務員法第35条で規定されている職務専念義務に違反する。」
この回答により、国レベルでもPTA業務への従事が原則違法であることが確認された。しかし、同時に文科省は一つの「例外」あるいは「逃げ道」を示唆している。
「ただし、学校徴収金(学級費、給食費等)に係る業務については、学校教育活動に付随する公務という整理をしており、職務専念義務違反とは考えていない。」
この「学校徴収金」という概念が、現場における違法状態を温存する隠れ蓑(ブラックボックス)となっている。多くの学校では、給食費や教材費といった「準公金(学校徴収金)」と、私費である「PTA会費」を同一の口座(学校徴収金口座)で一括管理し、教職員(特に事務職員)が一体的に処理する「抱き合わせ徴収」が行われている。
文科省の見解を拡大解釈し、「PTA会費も学校徴収金の一部である」あるいは「一体的に徴収しているから公務に付随する」という強引なロジックで、PTA会計事務なし崩し的に公務の中に紛れ込ませているのが実態である。しかし、PTA会費はあくまで「任意団体の会費」であり、法的根拠に基づく給食費等とは本質的に異なる。この混同こそが、後述する地方自治法違反の温床となっている。
職務専念義務違反を回避する手段として、法律は「職務専念義務の免除(職専免)」という制度を用意している。現場では、PTA業務を行う教職員に対し、この職専免を適用することで適法化を図ろうとする動きがあるが、その適用には極めて高いハードルが存在する。
職専免は、地方公務員法第35条の「法律又は条例に特別の定がある場合」に該当する例外措置である。各自治体の「職務に専念する義務の特例に関する条例」等に基づき、人事委員会規則等で具体的な要件が定められている。 一般的に職専免が承認されるのは、以下のようなケースに限定される。
厚生福利事業: 職員の健康診断、レクリエーション等。
研修: 公務に資する講習会への参加。
公益的活動: 国や他の地方公共団体の事業への協力、公共的団体の業務で特に公益性が高いもの。
PTA活動に職専免を適用する場合、その活動が「地方公共団体の事務事業と密接な関連を有し」、かつ「公務の遂行に支障がない」ことが絶対条件となる。
日常的なPTA業務(会計、集金、庶務)に対して職専免を適用することは、以下の理由から法的に破綻している。
2.2.1 「公益性」と「私益性」の相反
PTAは、その学校の児童生徒と保護者という特定の構成員のために活動する団体である。その活動には公益的な側面(地域パトロール等)もあるが、会費の徴収や名簿管理、広報紙の発行といった内部管理事務は、あくまで団体の維持運営のための「私益的活動」である。
特定の私的団体の運営事務を税金で給与が支払われている公務員が代行することは、住民全体の奉仕者としての立場と矛盾し、特定の団体に対する不当な利益供与(便宜供与)となる
2.2.2 「恒常性」の問題
職専免は本来、一時的・臨時的な活動に対して例外的に認められるものである。しかし、PTAの会計事務や集金業務は、毎月あるいは定期的に発生する恒常的な業務である。
年間を通じて数百時間に及ぶような恒常的な業務に対し、漫然と職専免を適用し続けることは、制度の濫用であり、実質的に「職務の放棄」を許可しているに等しい。
2.2.3 住民訴訟のリスク
もし教育委員会や校長が、PTAの集金業務等のために教職員に職専免を承認し、その間も給与を満額支給していたとすれば、それは「違法な公金の支出」にあたるとして、地方自治法第242条に基づく住民監査請求、さらには住民訴訟(4号請求:損害賠償請求)の対象となるリスクが極めて高い。
判例(東京高判平成6年10月25日等)においても、職員派遣や給与負担の違法性が争点となっており、公益性が不明確な団体への便宜供与は厳しく断罪される傾向にある。
横浜市教育委員会とPTA適正化推進委員会との間の往復書簡(2025年12月)において、市教委は学校職員によるPTA業務への関与を「校務として整理するか、職務専念義務の免除として整理するか検討中」と回答している。
この回答は、行政法的に見れば非常に重大な意味を持つ。なぜなら、現時点において横浜市内の多くの学校で行われているPTA業務代行が、「校務」という職務命令もなければ、「職専免」という正規の承認手続きも経ていない、いわば「法的根拠なき闇公務」であることを是認しているからである。
「検討中」という言葉は、現状の違法性を認識しつつも、直ちに停止すればPTA運営が崩壊するというジレンマの中で、行政が立ち往生している状況を如実に表している。
学校職員がPTA会計に関与することの違法性は、単なる労務提供の問題にとどまらず、地方自治法上の財務規律に対する重大な違反を含んでいる。ここでは、いわゆる「学校徴収金」の闇に迫る。
地方自治法第235条の4第2項は、地方公共団体の現金管理について厳格なルールを定めている。
地方自治法 第235条の4 第2項
債権の担保として徴するもののほか、普通地方公共団体の所有に属しない現金又は有価証券は、法律又は政令の規定によるのでなければ、これを保管することができない。
この規定は、公金以外の現金(私金)を自治体が保管することを原則禁止するものである。
学校給食費については学校給食法、日本スポーツ振興センター掛金については独立行政法人日本スポーツ振興センター法といった個別の法律により、学校(自治体)が徴収・保管する法的根拠が与えられている。
しかし、PTA会費にはそのような法的根拠が存在しない。PTA会費は純然たる「私的団体の資金」であり、これを学校長や事務職員が保管・管理することは、地方自治法第235条の4違反となる可能性が極めて高い。
教育現場では、この違法性を回避するために「準公金」や「学校徴収金」という概念を用いて、PTA会費を事実上の公金として扱っている。
和歌山県海南市の訓令や橋本市の監査資料に見られるように、多くの自治体では「学校長が教育活動上必要と認めた場合」や「団体から委任を受けた場合」に限り、私金を「準公金」として取り扱うことを内部規定(要綱・要領)で定めている。
しかし、一自治体の内部規定(要綱レベル)で、法律(地方自治法)の禁止規定を解除することは法階層的に不可能である。総務省も「学校徴収金についても、地方自治法第210条(総計予算主義の原則)によって歳入としなければならない」との見解を示唆しており、学校独自の「私費会計」としてPTA会費を扱う現在の運用は、地方財政法および地方自治法の観点から見て、極めて危うい「脱法行為」と言わざるを得ない。
この公私混同の構造は、管理の不透明さを招き、教職員による横領事件の温床となっている。
2023年、香川県の県立高校職員がPTA会費など約920万円を私的に流用した事件など、PTA会計を巡る不祥事は後を絶たない。事務職員が一人で通帳と印鑑を管理し、学校長のチェックも形式的なものにとどまるケースが多い。
教職員が職務外の現金を管理し、事故を起こした場合、それはもはや職務専念義務違反のレベルを超え、業務上横領罪(刑法第253条)という刑事事件に発展する。学校長は、法的根拠のない現金を部下に管理させた監督責任(使用者責任)を問われることになる。
法的リスクが顕在化する中、一部の先進自治体では、条例や要綱の整備、あるいは運用の抜本的見直しによって、適法化を図ろうとする動きが出ている。ここでは、対照的なアプローチをとる川崎市と横浜市の事例を詳細に分析する。
川崎市教育委員会は、全国に先駆けて「川崎市立学校におけるPTAの会費の取扱等に関する要綱」を制定し、PTA会費の徴収事務を正面から「校務」として位置づけるという大胆な手法を採用した。
4.1.1 制度のスキーム
委任契約: PTA代表者(会長)から学校長(市)に対し、会費の収納事務に関する「委任状」を提出させる。
受託と校務化: 学校長がこれを受託することで、収納事務は民法上の委任契約に基づく市の業務となり、管理運営規則上の「校務」として位置づけられる。
職員の業務: これにより、事務職員や教員が勤務時間中に会費徴収業務を行っても、それは「校務」を遂行していることになるため、職務専念義務違反にはならないというロジックである。
4.1.2 川崎市モデルの法的脆弱性とオンブズマンの指摘
このモデルは一見、形式的な整合性を保っているように見えるが、重大な落とし穴がある。2022年、川崎市市民オンブズマンは、市立小学校が保護者の加入意思を確認せずに会費を徴収していた事例について「市に不備があった」と指摘した。
要綱によって「徴収事務」を適法化しても、その前提となる「PTAへの加入契約」が成立していなければ、徴収そのものが「不当利得」あるいは「財産権の侵害」となるからである。
市が「校務」として徴収を代行するということは、PTAが行う「強制加入・強制徴収」という違法行為に、公権力が加担・協力することを意味する。行政が私的団体の違法行為の片棒を担ぐ構図となり、国家賠償法上の責任リスクはむしろ増大する。
一方、横浜市教育委員会は、市民からの度重なる指摘を受け、2025年12月1日に画期的な通知を発出した。
4.2.1 令和7年12月1日通知「PTA連携について」の衝撃
この通知において、横浜市教委は以下の原則を明確に打ち出した。
オプトインの推奨: 「加入しないと申し出ない限り会員」とするオプトアウト方式ではなく、加入届を提出させる「オプトイン方式」での運用を強く推奨。
個人情報の厳格化: 本人の同意なく、学校からPTAへ名簿を提供することを禁止。
代理徴収の要件: 学校徴収金の承諾書に、PTA会費徴収の意思確認欄を設け、書面で同意を得ること。
4.2.2 「公務整理」と「職専免」の狭間での葛藤
横浜市は、入会手続きの適正化(入り口論)では先行したが、教職員の業務関与(出口論)については「校務か職専免か検討中」として結論を先送りしている。
オプトインを徹底すればするほど、会員と非会員が混在することになり、学校事務職員が名簿を管理し、徴収データを振り分ける手間は激増する。これを「公務」として認めるならば、特定の任意団体のために多大な公費(人件費)を投入することの正当性が問われる。逆に「職専免」とするならば、業務量的に破綻する。
横浜市の対応は、適正化を進めれば進めるほど、現在の「学校依存型PTA」の維持が不可能になるという「構造的な詰み」を露呈させている。
教職員がPTA業務を行うことの違法性は、その業務の対象である「PTA会員」の法的地位の不安定さによって、さらに深刻化する。
PTAは「権利能力なき社団(任意団体)」である。したがって、保護者がPTAに入会することは、法的には民法上の「契約」に他ならない。契約の成立には、申込みと承諾の合致が必要である(民法第522条)。しかし、多くの学校で行われている「みなし加入(入学=自動入会)」は、保護者の明示的な意思表示を欠いている。
契約の不存在: 意思表示がない以上、契約は成立していない。契約のない相手から会費を徴収することは、法的根拠のない財産の移転であり、「不当利得」(民法第703条)となる。
消費者契約法違反: 消費者契約法上PTAは事業者、保護者は消費者とされており、重要な事実(入退会の自由、会費の使途等)を告げずに契約させることは、不利益事実の不告知(同法第4条)や不当な勧誘に該当し、取り消し事由となる。また、同法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)の観点からも、「特段の申し出がない限り会員とみなす」といった不作為による自動加入規定は無効である。
詐欺・錯誤: 「加入は義務である」と誤信させて入会させた場合、詐欺(民法第96条)や錯誤(同第95条)による無効が主張され得る。
学校長がPTA会費を徴収する場合、PTA(委任者)と学校長(受任者)の間に適法な委任契約が必要である。しかし、多くの学校では口頭の慣習のみで行われている。
さらに深刻なのは、保護者がPTAに入会していない(契約が成立していない)にもかかわらず、学校長が「PTAの代理人」として会費を請求・徴収する場合である。これは、本人の授権がないにもかかわらず代理権を行使する「無権代理」(民法第113条)に該当する。
無権代理によって徴収された会費は、保護者に対して返還義務が生じ、その責任は行為者である学校長個人に及ぶ可能性がある。
「みなし加入」の運用を支えているのは、学校が保有する児童・保護者の個人情報(氏名、住所、口座情報)の流用である。
学校教育のために収集された個人情報を、本人の同意なくPTAという第三者に提供し、あるいはその使用目的を逸脱し、会費徴収や連絡網作成に使用することは、個人情報保護法第69条(利用及び提供の制限)および各自治体の個人情報保護条例に対する明白な違反である。
特に、「同意がない場合は申し出てください」というオプトアウト方式での第三者提供は、法律が定める厳格な要件(個人情報保護委員会への届出等)を満たさない限り認められない。学校という公的機関が、この手続きを経ずに個人情報をPTAに横流しする行為は、行政機関による組織的な違法行為であり、刑事罰(同法第84条等)の対象となり得る深刻な事態である。
PTAの違法運用に関する司法判断として、2016年の「熊本PTA裁判」は決定的な転換点となった。
この裁判では、保護者の同意なくPTAに入会させられ、会費を強制徴収された保護者が、PTAだけでなく学校長の責任も追及した。
判決(および和解条項)において確認された重要な事実は以下の通りである。
加入の任意性: PTAは任意団体であり、保護者の同意なく強制的に会員とすることはできない。
学校の責任: 学校長が、PTAの違法な運用(強制加入・強制徴収)を認識しながら放置・容認していたことは、不法行為を構成し得る。
職務専念義務違反の認定: 判決文の中で、行政側(教育部長)が「勤務時間中に会費を扱うのは職務専念義務違反の恐れがある」と明言していたことが事実認定された。
この司法判断は、「これまでやってきたから」「みんなやっているから」という「慣例」が、法廷では一切の免罪符にならないことを示した。
学校長や教職員が、「PTAのため」「子どものため」という動機で業務に関与したとしても、それが法令(地公法、個人情報保護法、民法)に違反していれば、法的責任を免れることはできない。現在も漫然とPTA業務を代行している全国の学校職員は、いつ訴訟の被告となってもおかしくない「法的地雷原」の中にある。
以上の多角的な分析から導き出される結論は明白である。学校職員が勤務時間中に、法的根拠や正式な手続きを経ずにPTA業務(特に入退会管理や会計事務)を行うことは、地方公務員法第35条違反である。
さらに、この違反行為は単独で存在するのではなく、地方自治法(公私混同)、個人情報保護法(目的外利用)、民法(無権代理・契約不成立)といった複数の法令違反と複雑に絡み合った「複合的・構造的な違法状態」を形成している。
川崎市のような「校務化」による適法化への試みも、PTA側の入会契約の適正化が前提であり、すべての保護者から同意を得られない限り、完全な適法化は不可能である。それ以前に公務員による私的団体の業務の肩代わりは職務専念義務に反しており、例えガイドラインを根拠にしたとしても、それは法35条の求める「法律や条例に特別な定めがある場合を除き」という要件を満たしていない。また、横浜市のように「オプトイン」を徹底すれば、事務負担の増大により学校による代行自体が物理的に破綻する。
つまり、現在の「学校丸抱えのPTA」というシステムは、法治国家においてはもはや持続不可能(Unsustainable)である。
教育委員会および学校長は、法的リスクを遮断し、健全な学校運営を取り戻すために、直ちに以下の措置を講じるべきである。
1. 「公務」と「私的活動」の完全分離(「手伝い」の禁止)
即時禁止: 教職員が勤務時間中にPTAの会計事務(集計、記帳、支払)、広報誌作成、バザー準備、役員選出の調整等の実務を行うことを即時禁止する。
職専免の厳格化: これらをどうしても勤務時間中に行う必要がある場合は、条例に基づく厳格な基準(公益性・臨時性)を満たす場合に限り「職務専念義務免除」を承認し、その妥当性を公文書として記録する。日常的な会計事務への適用は認めない。
2. PTA会費の「学校徴収」からの完全撤退
自律徴収への移行: 学校口座を用いたPTA会費の代理徴収(抱き合わせ徴収)は原則として廃止し、PTAが自らの責任で徴収する体制(独自の口座振替、集金アプリ、コンビニ払い等)へ移行させる。これが最も確実なリスク回避策である。
経過措置の要件: やむを得ず代理徴収を継続する場合でも、以下の「適法化3点セット」を必須とする。
業務委託契約書: 学校長とPTA会長間での書面による契約締結(無権代理の解消)。
保護者の個別同意書: 加入申込書とは別に、費用の引き落としに関する明示的な同意取得。
第三者提供の同意: 学校からPTAへ、徴収結果情報を提供するための個人情報保護法に基づく同意取得。
3. 「オプトイン(入会申込制)」の完全実施と名簿管理の適正化
自動加入の廃止: 入学説明会等において、「PTAは入退会自由の任意団体である」ことを口頭および文書で明示し、「入会届」を提出した者のみを会員とする運用を徹底する。
個人情報の分離: 学校が保有する児童名簿をPTAに流用する慣行を停止する。PTAは、自らの責任において入会届を通じて会員情報を取得・管理する体制を構築する。
4. 教育委員会の指導監督責任の履行
ガイドラインの策定: 各教育委員会は、学校とPTAの関係に関する適法かつ明確なガイドライン(手引き)を策定し、教職員の関与の限界(何が違法か)を具体的に明示する。
監査の実施: 定期的な学校監査において、学校徴収金の管理状況だけでなく、PTA会費の取り扱いや教職員の関与実態についても重点的に監査し、是正勧告を行う。
PTAは「子どものため」という美名の下、長らく法の及ばない聖域として扱われてきた。しかし、その結果として生じたのは、教職員の過重労働(職務専念義務違反)と、保護者の権利侵害(強制加入)、そして公教育のガバナンス欠如である。
学校職員がPTAという「私」の業務から手を引き、本来の「公」の職務である教育活動に専念することこそが、真の意味で「子どものため」になる道である。また、PTA自身も学校の下請け機関から脱却し、自律的な社会教育団体として再生することが求められている。
教育行政は、慣例に逃げ込むことなく、法治主義に基づいた断固たる是正措置を講じ、学校とPTAの「健全な分離」と「対等な連携」を再構築する歴史的責任がある。
(以上)
引用文献
地方公務員法 - e-Gov https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000261
【資料】「PTA業務」と「職務」 (1).pdf, PTA適正化推進委員会https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:8601a349-45e0-4c73-aa36-914987b5d22d
1 職務専念義務の免除を認めている例の概要 https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/soumu/jinji/files/R6_6_jinjigyousei.pdf
職務専念義務の免除について https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F4021293&contentNo=36
公立学校におけるPTA運営適正化と違法な公金支出是正に関する最終申入書 PTA適正化推進委員会 https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:8601a349-45e0-4c73-aa36-914987b5d22d
判例タイムズ No.913 https://legalarchives.co.jp/series/1?s=%E5%88%A4%E4%BE%8B%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%BA+No.913&title_id=962
旧庁舎の解体及びそれに関する公金支出の差止めが認められなかった事例http://lex.lawlibrary.jp/commentary/pdf/z18817009-00-022011739_tkc.pdf
第78回(2013年6月号)支出負担行為の違法と支出命令の違法http://www.tokyo-hirakawa.gr.jp/forefront/forefront64.html
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海南市立学校準公金取扱要綱 https://www.city.kainan.lg.jp/section/reiki/reiki_honbun/r219RG00000691.html
学校監査結果報告書 - 橋本市 https://www.city.hashimoto.lg.jp/material/files/group/62/R3gakkoukannsa.pdf
公金外現金等取扱マ ニュアル - 熊本市、https://www.city.kumamoto.jp/kiji00358832/3_58832_429719_up_0qtve70x.pdf
公教育の無償化に向けた取り組みhttps://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_aichi33/11/1107_jre/index.htm
公立学校の給食費や教材費、修学旅行費等が私費会計口座として当該学校長の 個人口座などに管理されている実態と不透明な管理体制による横領などの犯罪 事案のリスク等に関する質問主意書 - 参議院 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/217/syup/s217019.pdf
川崎市立学校におけるPTAの会費の取扱等に関する要綱 https://www.city.kawasaki.jp/templates/outline/cmsfiles/contents/0000140/140964/R6.4.1PTAyoukou.pdf
川崎市立小がPTA会費を加入意思を確認せずに徴収 オンブズマンが「市に不備があった」と指摘
https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/education/56217/
横浜市教育委員会 令和7年12月1日 通知 学教第1965号 PTA連携について(1)-1.pdf, https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:34e76209-0675-4f12-aece-d48454b1b3b7
学校によるPTA会費代理徴収の法的瑕疵と構造的不可能性に関する考察 PTA適正化推進委員会
https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:bb11fb70-e900-4e68-8724-6941ce9991d0
令和6年度答申第1号 - 高槻市 https://www.city.takatsuki.osaka.jp/uploaded/life/142425_773072_misc.pdf
棄却でも行政は逃げられない。PTA訴訟が刻んだ構造的責任|turtles8men - note, https://note.com/turtles8men/n/n70075af64dc4